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2008年8月18日 (月)

治安維持と人道支援

皆さんこんにちは。JENカブール事務所長の柴田哲子です。

アフガニスタンでは、現在カブールの治安維持責任は
多国籍軍(ISAF:International Security Assistance Force)に
属しています。

これが、近日中にアフガニスタン国軍(ANA:Afghan National Army)に
移譲されることになっています。

ISAFとANAの装備や人材等々の違いを理由に、
この責任の移譲を契機に、カブールの治安が大幅に悪化するのでは、
との見方が大勢を占めているようです。

ところが、先日のANSOのCountry Directors Meetingにて、
上記の責任の移譲が治安にもたらす影響について
ANSO及び出席者のCountry Director達に意見を
求めてみたところ、かなり意外な、と同時にある意味
当然と言えば当然の反応が返ってきました。

例えば、こんな感じ。

「フッ(鼻で笑う音)。治安維持だって~?!ISAF軍が
 市内を通るたびに市内の大部分が通行止めになって
 足止めを食らってテロに巻き込まれる危険性が高まったり、
 ISAFが一般市民を巻き添えにしたり、ISAFのお陰で攻撃
 されるような状況を治安というならね~。ハハハ~ッ。」

参加していたのは、殆どが欧米のNGOでした。

===

現在のアフガニスタンにおける治安維持と人道支援について
考えるとき、2つのポイントがあると考えます。
第1は、アフガニスタンの国民感情。
第2は、反政府勢力の反応。

第1点目については、上記のANSO meetingでの回答に
あるように、交通が頻繁に遮断されるだけでなく、民家への
誤爆や市内での一般市民の殺傷等が頻繁に起きている
ことは周知の事実です。

したがい、アフガニスタンの一般市民からすると、
たとえ治安維持のために来ているとしても、やはりISAFに対し
好意的な感情を持つことは非常に難しいようです。

ISAFは、そのような状況を改善する目的もあり、
Provincial Reconstruction Team (PRT)による復興・開発事業を
実施しています。

しかしながら、戦車に乗ったフル装備の軍人が、学校で
子ども達に文房具を配ったり、クリニックで病人を診察をしたり、
はたまた建設事業を監督したりという状況には、こちらが
非武装であることもあり、アフガニスタンの一般市民でなくても
非常に違和感を感じると同時に、やはり単純な恐怖感を感じます。

アフガニスタンのどの場所でも耳にする言葉。
「欧米は自国の国益のために支援をしているけれど、
 日本は純粋にアフガニスタンのための支援をしてくれている」

これは、既述のような事実の積み重ねから、少しずつ醸成されて
いった感情なのだと思います。

このような環境の中で、人道的目的でアフガニスタンを訪れ
活動を続けている欧米のNGOが、日本のNGO以上の困難に
直面しているであろうことは、容易に想像できます。


加えて、第2点目。

先日のLogar州でのNGO職員の殺害に関連し、
タリバンが、カナダ軍が派兵を中止しなければ、
今後もカナダ人を殺害していくとの声明を出しました。
記事①
記事②
その他

この声明が、現政権下での混乱の醸成を目的としていることは
明らかです。

先日も書いたように、治安の安定しない場所であるからこそ
より高い人道支援のニーズが存在します。

しかしながら、例えばチェチェンレベルまで治安が不安定化して
しまった場合、人道支援団体の活動自体が不可能になって
しまいます。

人道支援の実施に際し、ある程度の治安の安定は不可欠です。

その観点からすると、外国軍の派遣がどれくらい治安の安定に
寄与しているのかという点については、慎重に検証する必要が
あると思います。

現在のアフガニスタンの状況を見ると、治安維持のために
来ている外国軍ですが、残念ながら当初の目的とは異なった
状況を生み出していると言わざるを得ないように思いますが、
如何でしょうか?

===
そして、このような状況を踏まえて今後懸念されることは、
治安悪化が激化することにより、人道支援団体が支援を停止
した時の社会的なインパクトです。

真に支援を必要としているにもかかわらず、治安の不安定化のため
支援が届かない地域や人びとが多数でてくることによる混乱や不安定化。

加えて、国際支援以外に主要な産業が育っていない
アフガニスタンにおいて、支援団体が撤退することによる
雇用者とその家族、引いては社会全体に与えるインパクト。

今回事件に遭ったIRCは、支援の一時停止を表明していますが、
アフガニスタンの事業規模は、国際スタッフ10名、
ナショナルスタッフ500名とのことです。

アフガニスタン人の家庭では、両親、夫婦、その兄弟、
子ども達というように、一般的に数世代・十数名が一緒に
暮らしています。
その中で稼いでいるのは、例えば夫とその兄弟のみ。

つまり、2人程度で10人以上の規模の大家族を養っている
家庭が殆どです。

IRCだけでも、単純計算で約6千人の生活に影響を
与えることになります。

仮に、撤退や活動の一時停止を行う国際支援団体が
今後も出てくるとすると、そこで働いているスタッフと
そのスタッフにより生活を支えられている家族に
大きなインパクトがあることは間違いありません。

ことほど左様に、直接的・間接的に、タリバンの思った通りの
不安定な状況が醸成されていくことになることが、
現在のアフガニスタンが内包する大きな懸念と言えます。

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